ハチャの深層

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仏料理の真髄

 世界最高の料理は何であろうかと問われれば、中華料理と私は答えます。人口比で食べている人が一番多いというのがその理由です。まあ、それは半分冗談ですが、最も感心するのは調理時間の短かさです。多くの料理は素材を焼き、炒め、茹で、蒸し等の調理法を駆使し短時間で完成されます。世界各国の料理で一番調理時間が短いのではないでしょうか。
 でもフランス料理もなかなか捨てがたいものがあります。フランス料理は世界各国の料理の中で一番洗練された料理だと思います。それはフランス料理がお抱え料理人が作る、貴族のための料理だったことに起因します。貴族たちは客人たちに料理内容を誇示し競っていたわけです。だから味だけではなく、見た目も重視されたのです。見た目というのは盛り付けだけではありません。たとえば、野菜のテリーヌを考えてみればわかり易いでしょうか。その断面の華やかさといったらありません。さて、貴族のお抱え料理人はフランス革命で市場に溢れ、レストランを始めた。だから、レストランで食べるフランス料理はそもそもの最初から洗練されていたのです。

 さてフランス料理について最近印象深い話が二つありました。一つはピエール・ガニェールが取り組む分子料理法。分子料理法とは食材を構成する分子の状態を変える作業のことです。例えば、ホイップは水分中にクリームの脂分子が散らばっている状態です。もちろん、泡立て器で空気を入れてこの状態を作るわけです。これは生クリームにだけ出来ることではなく、脂が散った状態の液体に空気を入れればどんな液体でもホイップ状になるのではないかと気づいたのが、エルヴェ・ティス。実験の結果殆どの上手くいったのです。この結論から到達したのは分子レベルで調理法を見て、その原理を知ることで今まで特定の食材に限定されていた調理法に無限のバリエーションが生まれるのではないかということです。
 今までフランス料理の調理技術体系というのは食材の制約で決まっていたのです。しかし、分子調理法はまず技術ありきの発想なのです。フランス料理のこれまでの技術体系がひっくり返るのは時間の問題です。シェフがやろうとすれば、そして、お客が受け入れるのであれば。

 もうひとつは去年ミシュランの一つ星を取った日本人シェフ松嶋啓介が語った話です。スイスの三ツ星レストランで働いていた時のです。彼が付け合せの野菜に火を入れて、盛り付けてシェフに皿を渡したときにシェフは即座に「塩が足りないんじゃないか?」と言ったので仰天したそうです。彼が食べてみると確かに少し、塩が足りなかったとのことでした。では、何故シェフは食べもせずに塩が足りないことを見抜いたのか?後で聞いてみるとこういうことでした。
 フランス料理の野菜への塩の入れ方は基本的にその野菜の甘みが最大限に感じる点まで入れます。そのときと、そうではないときで甘みもさることながら、香りも違ってくるとのこと。付け合せの野菜の香りがいつもと違ったので、塩に言及したとのことでした。シェフは続けて、味覚、視覚だけではなく、嗅覚、聴覚、触覚の五感を使って素材と向き合うことが大切だと説いたのです。聴覚も大切だという意識があるためこのレストランの厨房はとても静かだそうです。

 もちろん、他の国の料理だってきわめて技術の高い料理人はいるでしょう。しかし、調理という感覚から頭一つ抜けていると感じざるをえないのがフランス料理だと思います。フランス料理の印象を「盛り付けにばかり拘った見た目重視の料理」と思う人は多いと思います。実にこれは数的には正しいと思います。

 真に美味しいを作り出す圧倒的な技術力、感性を持つシェフは美味しいがゆえに盛り付けも美しくしたくなるし、感性を持つがゆえに「美味しい」を伝える盛り付けが出来るようです。これは不思議なことですが超一流のシェフたちは美しいだけではなく、美味しいを伝える盛り付け技術、感性を持っているのです。これができないシェフは飾りの盛りしかできないのです。これがフランス料理の盛り付けの実態だと思います。

 この記事であげた二つの話は私にとってフランス料理の真髄を少し垣間見た感じでした。やっぱりフランス料理も捨てたものじゃないと。
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  1. 2007/01/24(水) 00:46:52|
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