ハチャの深層

ハチャ独自の視点で ワイン、食、音楽、アート等を レビュ 。 

岸田周三(カンテサンス) プロフェッショナル仕事の流儀

 去年、ひとつ悔しいことがありました。地元のビストロで料理関係の記者と東京の極上レストランについて話したときに、その人があげたレストランの一つにカンテサンスがあったからです。
「素晴らしいですよ」とその人は言いました。私が今は無き恵比寿のレトワールを口にしたときにその人が狂喜したことから感覚、好みは似ているかもしれないと思いました。それなのに行かなかったのです。それから、その言葉を裏付けるかのように東京ミシュランで三ツ星を獲得。
 三ツ星を取って予約が取れなくなったから悔しいのではありません。三ツ星のレベルをそれを取る前に食し私がどんな評価するかを自分で試すことができなくなったことが悔しいのです。今後カンテサンスに行くにしても三ツ星だからという先入観で食べてしまいますから。

 ロオジエやロブションは下馬評どおりとして、一般には無名のカンテサンスが3つを獲得すると、人々は食べてもいないのに3つになった特異な理由をさがしてしまう傾向が出てしまいます。いわく、
「お任せしかないんでしょ」・・・得意料理だけ出せるメリットがある。
「13種のアミューズの連続なんでしょ」・・・少量というのは飽きが来ないというメリットがある。
 そんな風評です。私もそのなかのひとりと言って差し支えありません。

 カンテサンスのスタイルは一般的なものより評価が高くなりやすいものであることは事実だと思います。でもどれだけ差が出るかは別ですし、このスタイルをとって味が標準よりやや良いレベルであれば評価は逆にマイナス要因になりかねません。お任せのみでこの程度の味!?などと。そんなことを考えていたらNHKの番組、プロフェッショナル 仕事の流儀にカンテサンスのシェフ岸田周三が出演とのことでじっくり見ました。

 さて実は私は雑誌の写真などを含めて料理を観れば、食べなくともその料理が美味しいかどうか判断できる能力があります。訓練を積んで備わったのです。昔の番組ですが「料理の鉄人」などで結果を予想して当てたり。なぜ判断できるかは自分でもうまく伝えることができません。素材の組み合わせや、調理方法なのかもしれません。絵画で例えて言えば、画家の感性や情熱を感じられる素晴らしい絵は見ればそれが感じられます。これと同様に料理も料理人のそれが皿に表現されてそれを感じるのでは、というのが私の考えです。

 さて、見て美味しいかどうか私が判断する番だと、意気込んで岸田の料理を見ました。魚は螺鈿(らでん)色です。これは番組の中での表現でしたがまさにそうです。螺鈿で使う貝殻の輝きで驚きましたし、こんな焼き具合は見たことありません。これは魚の切り身についてその厚みや、水分状態について把握し、フライパンをストーブ上で動かして火の入りを均一にしていくとのこと。フランスでの修行時代に自分が焼いた同じ魚を師匠が焼いて食べ比べたら次元が違う味に驚いたというエピソードがありました。
 次に鴨ですが火が入っているのに肉汁が沸騰しているのでも、沸騰した後でもないようです。肉汁は1滴も外に出していないようです。こんな肉の焼き具合も私は見たことがありません。1分オーブンに入れて5分オーブンの脇で休める。これを2時間半繰り返すとできる焼きのようです。肉にストレスをかけないこのような焼き方というのは肉本来の味を味わうための調理法としてこれ以上ない方法です。私も分かってはいるのですが、実際にここまでやることはありません。

 岸田は一日に16時間働くと言います。フランス修行時代に食べて感激したレストラン アストランスに直談判し見習い以下の待遇で入ったあと、8か月後に2番手になったそうです。この人の凄さを感じる話はたくさんあるようです。
 番組を観終わって結局のところ私はカンテサンスが三ツ星を取ったことに疑念をもったことを恥じました。話を逸らすわけではないですが、そんなことどうでもいいと思えるほど岸田は凄いです。番組は「スター誕生」と最初にクレジットしましたが、それは星を獲得したからの表現です。日本のフレンチ業界は極めて優れた逸材を発掘しました。だからこそ今後もメディアは星の数ではなく才能、技量という角度から取り上げて欲しいものです。それはそうと、あの螺鈿の焼きを少しでも習得したいものです。
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  1. 2008/02/13(水) 00:58:09|
  2. 食(レストラン)
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