
読売日響が客演としてテミルカーノフを招いたのは最初が2000年で、今回が5回目とのことです。楽団員も楽しみにしているようです。それは音が違うから。自らがいつも奏でている音と違うことに自ら驚く。素晴らしい指揮者を招いたら時折起こることです。
チャイコフスキー 弦楽セレナーデ
以前、CM「おー人事」で使用されていた曲といえば一番わかり易いでしょうか。
第1楽章はとにかく弦の響きの美しさにうっとりしました。入念にリハーサルをしたのでしょう、息もぴったりの印象です。弾力を思わせるクレッシェンド、弾むようなピアニッシモ。弦という糸を精緻に織り込んだ見事なタペストリーを思わせます。暖系の色でまとめられたその鮮やかさはとても温かみがあり心を奪われるほど。もうロシアの楽団の音でした。
第2楽章はその旋律の美しさに酔いしれる楽章。どうしたらこんなに美しい旋律が書けるのだろうか。
第3楽章はヴィオラが美しい音を奏でる箇所がありました。もう感嘆音しか出ません。
第4楽章はそこまでの良さを感じませんでした。リハの時間制約でこの楽章が犠牲になったのでしょうか。それでも最後は見事な終わり方でしたが。
春の祭典 ストラヴィンスキー
ファゴットの導入は驚くほど長くゆっくりでした。さあ、これからは各パートの掛けあい。驚いたのは楽器の音の明瞭さ加減です。音が大きいだけではなくはっきりしています。もちろん、音程の安定度の違いでしょう。しかし、それを明瞭な印象に持っていくのは大変なことだと思います。
この曲おどろおどろしいという印象が一般的でしょうか。もちろん、旋律がそうですからそんな印象はありますが、テミルカーノフの音はあくまで美しいです。
息を飲む絶妙のタイミング。精緻で正確に刻むリズム。トライアングルが鳴る前の辺りの弦のハーモニーに思わず涙しました。第1部 大地礼賛の終わりの大地の踊りでは壮麗な石造りの構造物が崩壊するかのようなスケール感を感じました。この時、もちろんフォルティシモでしたが、そこで初めて今まで音を抑え目にしていたことに気付きました。それともフォルティシモがよっぽど大きな音だったのか。とにかく音の密度は濃く、粒度は細かいのです。
楽団員がステージを下がった後にも拍手は鳴りやまず、テミルカーノフが一人出てきた時は観客が総立ち。この日の演奏は素晴らしさを物語っています。
2013.05.24 芸術劇場 ユーリ・テミルカーノフ 読売日響
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- 2013/05/25(土) 12:38:01|
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