ハチャの深層

ハチャ独自の視点で ワイン、食、音楽、アート等を レビュ 。 

藤田嗣治展

藤田


 誰もが藤田嗣治の乳白色に感嘆の声を上げます。私とて絵を思い出すと身体の表面がピリピリするような感覚が蘇ってしまう、そんな官能的な乳白色でした。
 一般に油彩は絵の表面に絵の具の凹凸ができるのであるが、藤田の絵は凹凸がないばかりか表面がつるりとしていて光沢があります。まるで陶器に絵付けされているかのようです。もちろん、これは作為的に行っているのでしょう。そして、驚いたことに実際会場の出口では陶板に藤田の絵が印刷されているものが販売されていました。藤田の絵画には恐らくは乳白色を生かすように極彩色を用いているものは殆どありません。「砂の上」の裸婦の絵などはほぼモノトーンです。
 藤田のもう一つの特徴は線描です。それは極々細い線で、離れて観る分には気が付きにくいほどです。近づいて観るとこれもぞっとするほど繊細で色気を感じる線描です。線描は日本画の特徴です。その他に日本を感じるものとしては、裸婦の周りに服をまとった猫や犬、兎などの動物を配した「私の夢」などは動物が擬人化され、鳥獣戯画を思い起こす。野生剥き出しの猫が画面一杯に飛び跳ねる「猫」の躍動感の生々しさは実際の猫の動きを的確に表現しているためでしょう。見事です。
 さて従軍画家として描いた絵が数枚それも大きなものがあったのですが、戦意高揚とは無縁の戦地の悲惨さを生々しく描いていました。ただし、色使いが茶系で統一されており一見すると芸術レベルの高さに圧倒され美しく感じてしまうほどです。近づいてよく観察すると戦死者が無残にも重なっている様だったりします。藤田の手にかかると悲惨な戦場さえ美しく描かれてしまします。美しく描くと言うことは無残にも戦死した者へのはなむけなのかも知れないと想像したりしました。

 ヨーロッパに留学しヨーロッパの絵画の技法を学んだ日本画家の多くは帰国後スランプに陥ります。それはヨーロッパと日本では絵画のモチーフや、湿度、光の加減が違ったりするのでヨーロッパ絵画の技法そのままで日本を描くのは日本に馴染まないからだと私は思います。ヨーロッパの光の透明感、強さ、人間の顔の彫りの深さとそれによる陰影など。これらはやはり油彩が適しているのだと思います。翻って日本は湿度が高く、光の透明感もヨーロッパのそれほどではなく、人間の顔は彫りの浅く陰影もない、そして肌のきめ細かさ。こういう条件なら岩絵の具のほうが相応しいのかもしれません。
 藤田はヨーロッパの絵画技法を習得し日本に帰国することなく、ヨーロッパに滞在しました。そして、日本人ならではの感覚をそこに織り込んで成功したのです。あの乳白色は西洋人からは出てこないのではないだろうかと思います。ピカソが藤田の乳白色の秘密を観るために個展を訪ねたおり、最初の一枚目で3時間立ち尽くしたのは、乳白色の秘密が分かる分からないというレベルのことではなく、乳白色から立ち上る香気のせいではないだろうかと思います。日本人と言うのは気高き香気のようなものの感覚に長けていると思うのです。

 とにかくフランスで最も知名度の高い日本人で、画家としての評価も大変高かったにもかかわらず日本で評価が低かったというのは、同じ日本人として恥ずかしい。今後は母国でも画業にふさわしい高い評価を得ていくことを望むばかりである。
東京国立近代美術館にて5/21まで
スポンサーサイト
  1. 2006/04/08(土) 11:23:17|
  2. アート
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<劇的物語 ファウストの劫罰(4/8 HNKホール) | ホーム | ブルゴーニュ コート・ドゥ・ボーヌの10年目>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://mwzelda.blog22.fc2.com/tb.php/89-3710c109
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

ハチャ

Author:ハチャ
アーティスティックなものが好きな私です。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する